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コロナ以降、“マスク越しの声”はずっと課題だった
コロナ禍を経て、マスクをつけたまま話すことが日常になりました。
会議、授業、医療現場、そしてYouTube撮影や配信でも(こちらは顔を隠す意味もあり)──
「マスクを外せない」「でも声がこもる」「ノイズが入る」という悩みは誰もが経験したはず。
そんな中、東京大学とソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)京都が開発した新デバイス「MaskClip(マスククリップ)」が注目を集めています。
この小さなクリップをマスクに挟むだけで、マスクそのものがマイクになるんです。
従来の「マスク越し収音」方法とその限界
| 手法 | 仕組み | メリット | デメリット | 
|---|---|---|---|
| ピンマイク(ラベリアマイク) | 襟元やマスク外側に装着 | 手軽で高音質 | マスクの布が擦れる・音がこもる | 
| 咽喉マイク(スロートマイク) | 喉の振動を拾う | 騒音下でも明瞭 | 首に装着が必要・圧迫感あり | 
| AIノイズキャンセリングマイク | AIが背景音を除去 | 騒音に強い | 装置が大きい・高価 | 
| 拡声器マスク/音声アンプ | マスク内にスピーカー | 医療・教育現場で便利 | 重量・電池持ち・音質に課題 | 
どの方法も一定の効果はありましたが、「マスクが声を遮る」という根本課題を解決するには至っていませんでした。
MaskClipとは?
「MaskClip」は、東京大学大学院 情報学環の暦本研究室とソニーCSL京都が共同開発した、ピエゾ素子(圧電センサー)を利用した小型クリップ型マイクデバイスです。
「ピエゾ(Piezo)」とはギリシャ語で“押す・圧力をかける”という意味。ピエゾ素子(圧電素子)は、力や振動などの物理的な圧力を電気信号に変換する性質をもつ材料のことです。スピーカーやライターの点火装置、電子楽器、振動センサーなどにも使われています。
今回の「MaskClip」では、マスク表面のわずかな振動(声による空気の揺れ)をこのピエゾ素子で感知し、電気信号として音声データに変換しています。
つまり、マスクを“音を拾うセンサー”に変える心臓部がこのピエゾ素子なんです。
マスク表面の微細な振動を直接検出し、空気中の音ではなくマスクの動きを通して声を拾う仕組みです。
そのため、
- 騒音下でも話者の声だけを正確に収音
 - 外部ノイズや反響の影響を大幅に軽減
 - 一般的な不織布マスクにワンタッチ装着で衛生的
 
まさに「マスク自体が高性能マイクになる」という発想の転換です。
実験結果:ピンマイクの約3倍クリア
研究チームの実験によると、MaskClipは従来のピンマイクと比較して、文字誤り率(CER)を約3分の1まで低減。
これは、背景ノイズが多い環境でも自分の声だけを高精度で抽出できることを意味します。
医療・研究・教育・撮影など、マスク必須の現場での音声入力・通話・録音に大きな可能性を示しました。
クリエイターにも朗報:「マイクを隠せる」
マスクをつけたまま撮影・配信をしているYouTuberやVloggerにも朗報。
MaskClipならマスクの内側に収まるため、マイクを完全に隠した自然な映像を撮ることができます。
従来のようにケーブルが見えたり、襟元にピンマイクを隠す手間も不要。
見た目をすっきり保ちつつ、安定した音質で収録できるのはかなりの強みです。
今後の可能性
まだ研究段階ながら、MaskClipは以下の分野で応用が期待されています。
- 🏥 医療現場:マスクを外さず記録・音声指示
 - 🧑🏫 教育・会議:講師やスピーカーがマスクのまま講演
 - 🎥 コンテンツ制作:撮影時の隠しマイク代替
 - 🌐 翻訳・音声認識:リアルタイム文字起こしや自動字幕との連携
 
マスクが「声を遮るもの」から、「声を拾う新しいデバイス」へ。
そんな未来を感じさせる研究です。
この技術の詳細は以下の論文で公開されています。
					
