「ググる」の終焉とAI時代の新しいコンテンツ戦略

Google検索（いわゆる「ググる」）による集客モデルが大きな転換期を迎えています。近年、検索結果に生成AIが組み込まれたことで、ユーザーが検索エンジンでサイトにアクセスする従来型のSEO戦略が揺らいでいます。実際、「検索してクリックする」という行動自体が減少傾向にあり、デジタルマーケティングの常識が再定義されつつあります。この記事では、ググる時代の終焉が意味するものと、これからどのようにAIを活用して自社サイトへユーザーを呼び込むか、新時代のコンテンツ戦略についてまとめました。

Google検索の変貌とSEO終焉の兆候

近年のGoogle検索は劇的な変化を遂げています。2024年には検索結果にAIが要約回答を直接表示する「AIによる概要」（AI Overview）機能が本格導入され、ユーザーは検索結果ページ上で回答を得て満足してしまうケースが増えました。その結果、従来のように検索結果から各ウェブサイトへアクセスせずに完結する「ゼロクリック検索」が大幅に増加しています。実際、ある調査によれば米国における全Google検索の約58～60%は何もリンクをクリックしないまま終了していると報告されています。Google自身もAI概要の導入により検索経由のサイト訪問が20～70%減少しうることを認めており、上位表示されたウェブサイトへのクリック数は大きく低下しています。

さらに、ユーザーの情報収集チャネルは多様化しており、ChatGPTのような生成AIチャットボットに直接質問して答えを得る動きも出てきました。もはや人々は従来ほど検索エンジンに頼らなくなりつつあります。例えば、プログラミングQ&AサイトであるStack Overflowでは、ChatGPTの普及に伴い2023年のユーザー投稿が前年より64%減少したと報じられています。このように「検索離れ」とも言える現象が起き始めており、「検索エンジンで調べてサイトにアクセスする」というこれまでの行動パターンが崩れつつあるのです。

ポイント: GoogleはAI技術の導入により検索エンジンから回答エンジンへと変貌しつつあります 。ユーザーは知りたい答えをダイレクトに得られるため、従来型SEOによるトラフィック獲得は難しくなっています。

HubSpot事例に見るオーガニック流入減少の現実

かつてSEOによる集客成功例として知られたHubSpot社のオウンドメディアも、AI検索の影響を大きく受けています。HubSpotのサイトは非常に高いドメイン評価と1億を超える大量の被リンクを誇り、ピーク時の2023年3月には月間約2,440万ものオーガニック訪問がありました。しかし2024年末までに検索流入が激減し、2025年1月には約610万まで落ち込んでしまったのです。業界ではこの2年間で75%近い検索トラフィックの減少と分析されています。

2023年3月に約2,440万あった月間オーガニック訪問数が、2025年1月には約610万まで低下したことがわかります。この急落の背景には、Google検索で質問への回答が直接表示されるようになり、ユーザーがわざわざサイト上のブログ記事をクリックしなくなったことがあります。実際、HubSpotブログが上位表示を獲得していた「ブログを最適化する方法」など汎用的な質問トピックでは、検索結果ページでAIが内容を要約して提示するため、サイト訪問につながりにくくなっています。こうした広く一般的なトピックの記事ほど検索結果上のAI要約に置き換えられやすく、サイトへのクリック数が大きく減少してしまうのです 。

この現象はHubSpotに限りません。Googleは近年、上位表示の基準としてコンテンツの専門性や深さをより重視するようになってきました。浅く幅広いトピックを網羅するだけの記事は評価が下がり、AIによる即答が可能な一般的質問への対応では他サイトとの差別化が難しくなっています。つまり、従来有効だった「とにかく幅広いキーワードで記事を量産し検索流入を稼ぐ」戦略は限界に来ており、旧来のSEOは崩壊しつつあると言えるでしょう。

新時代のコンテンツ戦略: オムニチャネルと意図重視

では、検索流入が見込みにくくなった今、どのようにユーザーと接点を持てば良いのでしょうか。鍵となるのがコンテンツ戦略の転換です。ユーザーはもはやGoogle検索結果の青いリンク経由でサイトに来てはくれません。YouTube、Instagram、TikTok、XといったSNSや動画プラットフォーム、専門コミュニティ、ニュースレターなど、ユーザーが集まるあらゆる場所で情報提供することが不可欠です。HubSpot社CEOのヤミニ・ランガン氏も「顧客はもはやあなたのサイトに来てくれない。彼らはInstagramやTikTok、オンラインコミュニティなどあらゆる場所にいる。だから企業は顧客がいる場所すべてで情報発信する必要がある」と指摘しています。自社ブログやホームページだけに依存せず、オムニチャネルでコンテンツを展開することが新時代のマーケティングでは重要です。

加えて、量より質・意図を重視する発想へのシフトも求められます。AIにより表面的なトラフィックは得にくくなりましたが、その分こちらからユーザーのニーズ（検索意図）に寄り添った質の高いコンテンツを提供し、少ない訪問でも確実にコンバージョン（問い合わせや購入など成果）につなげることが大切です。 実際、ランガン氏は「もはやサイト訪問数ではなくコンバージョンこそが成長の指標だ」と述べています。たとえ全体のアクセス数が減っても、興味を持って訪れた見込み客を逃さずファンや顧客に転換できればビジネスの成長は十分可能です。

そのためには、コンテンツの届け方や内容を工夫する必要があります。動画コンテンツや音声メディア、メールマガジン、ポッドキャストなど、多様なフォーマットで情報発信しユーザー層を広げましょう。例えばHubSpotでは自社メディアを通じてビジネス系ポッドキャストやニュースレターを展開しつつ、AIを取り入れた効率的なコンテンツ生成にも注力しています。その結果、顧客企業ではコンテンツの40～50%がAIエージェントによりプログラム的に生成されるようになり、テキスト記事だけでなく短尺動画や音声コンテンツなどマルチメディア形式での発信量が飛躍的に増加しています。このようにAI時代ではコンテンツのフォーマットと発信チャネルを多様化し、ユーザーの目に触れる機会を最大化する戦略が有効です。

AIを活用したサイト集客の具体策

• AIでコンテンツ制作を効率化する: 文章作成やアイデア出しには生成AIツール（例: ChatGPTやBing Chatなど）を活用しましょう。ブログ記事の下書きや見出し案作成、SNS投稿文のアイデア出し、動画の脚本作成まで、AIがサポートしてくれる範囲は広がっています。実際、多くの企業がAI支援によって記事コンテンツだけでなく動画・音声コンテンツまで効率よく制作しています。AIに任せられる部分は任せ、人間は最終チェックと専門性の担保に注力することで、質を落とさずにコンテンツ生産量を増やすことができます。※AIに全てを依存すると画一的で陳腐な内容になる恐れもあるため、あくまで補助ツールと位置付けて活用しましょう。
• AI時代のSEO対策（AIO）を行う: 従来のSEOをアップデートし、AIに最適化（AIO: AI Optimization）したコンテンツ戦略を取り入れます。具体的には、ユーザーのよくある質問に答えるQ&A形式のコンテンツやFAQページを用意し、検索意図に対する明確な回答をコンテンツ内に盛り込みましょう。例えば製品やサービスに関する典型的な質問を想定し、自社サイト上で専門家として分かりやすく回答しておけば、検索エンジンだけでなくAIチャットボットにも情報源として認識されやすくなります。また、自社の経験や独自データに基づく一次情報を発信し、専門性・権威性をアピールすることも重要です。これはGoogleによる品質評価（E-E-A-T：経験・専門性・権威性・信頼性）の観点からも有利に働き、AIが情報を要約する際にも信頼できる情報として引用される可能性が高まります。さらに技術面では、構造化データ（Schemaマークアップ）の追加やサイト表示速度の改善など、AIがコンテンツを理解しやすくなるサイト構造の最適化も検討しましょう。そして、自社サイト以外でもブログ寄稿や業界メディアへの情報提供、専門コミュニティでの発言などを通じてウェブ上の複数の信頼できる情報源に自社の名前やコンテンツを露出させることも有効です。AIが回答を生成する際、ウェブ上で繰り返し登場するブランドや専門家の情報は引用・参照されやすくなるためです。このようにユーザーにもAIにも選ばれるコンテンツ作りを心がけましょう。
• AIによるパーソナライズでコンバージョンを向上: AIは大量のユーザーデータを分析し、個々の関心や行動履歴に応じたパーソナライズにも力を発揮します。マーケティングでは、サイト訪問者の履歴や属性に基づいてコンテンツやメール配信内容をAIが自動調整することで、一人ひとりに響く情報提供が可能です。例えばHubSpotでは、サイト来訪者の閲覧ページや興味に応じて内容を調整したメールキャンペーンを実施し、コンバージョン率を82%も向上させたケースがあります。このようにAIを活用すれば、大量の見込み客に対してもきめ細かなフォローができ、資料請求や購買など次のアクションへの誘導効果が高まります。自社でも顧客データをAI解析し、セグメントごとに最適な訴求を行うことで、限られたトラフィックを最大限リード（見込み顧客）化していきましょう。
• AIチャットボットで顧客エンゲージメントを強化: 自社サイト上にAIチャットボットを導入するのも有効な施策です。訪問者は24時間いつでもサイト上で質問ができ、その場で自動回答が得られれば、疑問の解消や商品理解が深まり離脱防止につながります。特にお問い合わせやサポート対応をチャットボットに任せれば、ユーザーを待たせることなく素早いレスポンスを提供できます。実際、HubSpotでは生成AIを活用したチャットサポートにより、入門的な問い合わせの約50%を自動解決しつつ顧客満足度を高く維持することに成功しています。中小企業でも、よくある質問に答えるチャットボットを設置すれば人手をかけずにユーザー対応品質を向上でき、サイト訪問者に「この会社は対応が早い」という安心感を与えることができます。その信頼が最終的なコンバージョンにも良い影響を与えるでしょう。

以上のように、AI技術を上手に取り入れることで少ないアクセスでも効率よく顧客を獲得できる土壌を作ることができます。重要なのは、AIによって検索経路が変わってもユーザーが求める価値ある情報を提供するという原点を忘れないことです。コンテンツの質とユーザー志向を軸に、AI時代の新しい集客チャネルを開拓していきましょう。

補足: なお、AIの台頭で「SEOは終わった」と言われがちですが、検索エンジン自体がすぐになくなるわけではありません。2025年現在も依然として多くのユーザーがGoogle検索を起点に情報収集を行っており、特に具体的な商品比較やブランド名での検索など、購買直前の重要な検索行動は引き続き発生しています 。したがって、従来のSEO施策（サイトの技術的最適化や専門的コンテンツの充実）も軽視すべきではありません。「検索＋AI」双方の特性を踏まえたハイブリッドな戦略で、これからのウェブ集客に臨むことが大切です。